『易』の構成

『周易』の原文は、ポケット版の小冊子で150項ほどのもので、「経(けい)」と呼ばれる本文と「伝(でん)」と呼ばれる解説部分からなっています。

「経」が三分の二、「伝」が三分の一の割合です。「経」は上、下二編に分けられ、上経三十卦、下経三十四卦となります。(六十四卦配列参照)

不揃いのようですが、天水訟水天需のように上下反対の形の二卦を一つと数え、上から見ても下から見ても同じ形の卦、乾為天山雷頤のなどをそれぞれ一つと数えるときは、上経、下経ともに十八ずつになります。

「経」を構成するものは、六十四の象徴的な符号「卦(か)」とそれに附せられた「卦辞(かじ)」「爻辞(こうじ)」です。

たとえば、乾為天の場合 乾為天 とあるのが卦であり、坤為地なら 坤為地水雷屯なら 水雷屯 というふうに六本の 陰 陰と 陽 陽で構成されます。

「卦」につづけて「乾、元亨利貞」とあるのが「卦辞」です。「卦辞」は、卦全体の内容を説くもので、占いの判断の言葉です。だから断定する断と同じ意味の彖(たん)を用いて彖辞(たんじ)ともいいます。

「卦辞」のあと「初九、潜龍勿用」「九二、見龍在田、利見大人」「九三…」「九四…」「九五…」「上九…」とならぶのが「爻辞」です。

ところで、この卦辞・爻辞をさらに註解し補足し、易の哲学思想的解説や総論といったようなものを付け加えたものが、「伝(でん)」です。

伝は十編によって成るため「十翼(じゅうよく)」とも呼ばれています。鳥の翼がその全身を空気中に支えるように、『易経』の本文を助け支えるという意味で、

彖伝(たんでん)上・下
象伝(しょうでん)上・下
繋辞伝(けいじでん)上・下
説卦伝(せっかでん)
文言伝(ぶんげんでん)
序卦伝(じょかでん)
雑卦伝(ざっかでん)

と、合わせて十編があります。

十翼は、伝説では孔子の作といわれてきましたが、今日では否定されています。占いの書だった易経を理論化して儒教の経典にするために、戦国から漠代にかけて十翼が書かれたというのが定説になっています。

ただし、十翼の思想の中には孔子の思想と相一致するものがあり、また相類するものも少くありませんので、たとえ十翼が孔子自ら筆を下して作ったものでないとしても十翼は孔子門流、特に子思、孟子の学派の手によって成り、その中には孔子の思想が含有せられているものとみてさしつかえないでしょう。

[ 十翼一覧 ]
彖伝・象伝 彖伝と象伝は、卦辞と爻辞の解説や補足をしたものです。『易経』を開くと、最初に卦辞があります。まず、「卦」が形で示され、それから文王作とされる卦辞が書かれ、それに対してそれぞれの彖伝と象伝がつきます。まず「彖に曰く」ではじまる、「彖伝」という卦辞の文章の説明があります。次に、「象に曰く」ではじまる「象伝」が続きます。「彖伝」とは形という意味で、英語のイメージにあたります。「形から言いますと」と断わってから、文章をイメージでとらえて解説していくものです。『易経』では、この「彖伝」と「象伝」の二つがもっとも重要です。「彖伝」は卦辞の解説であり、「象伝」は形象についての説明で、大きなイメージでとらえた卦辞全体の説明である「大象」と、小さなイメージでとらえた、つまり爻についての説明である「小象」があります。
繋辞伝 「繋辞伝」は、易経の意義、成立、陰陽の原理、筮法などを説いたもので、総論的な役目をしています。易経は本文を読んでもさっぱりわからないが、「繋辞伝」を読んだらよくわかったという人が多くいます。「繋辞伝」の文の中には名言が多く、「聖人卦を設け、象をみて、辞を設けたり。而して吉凶を明らかにしたり。剛柔相推して変化を生ずればなり」。また「易は天地と準う、故に能く天地の道を弥綸す」など、後世に残る言葉が記されています。 十翼の中でも最も重要なもので、易経を学ぶ人には必読のものです。
説卦伝 「説卦伝」は前半と後半に分けて見ることができます。前半は「繋辞伝」と同様の易全体の概論。それもきわめて簡潔な要約です。後半は八卦の象微を詳しく述べています。 「乾を旨となし、坤を腹となし、震を足となし」というように、八卦を人体、動物、自然現象などに当てて説明しています。
文言伝 「文言伝」は、六十四卦のうちで最も重要な乾・坤の二卦を特に詳しく解説したもので、乾坤の本文中の未尾に「文言に曰く」として、付けられています。 文はかざるの意で、乾坤の偉大な徳をたたえるには、かざりあることばでなければならないからだといいいます。
序卦伝 「序卦伝」は、経文として配列された六十四卦配列の順序の持つ意味とその正当性を説明したものです。 変化・動的という点でとらえているので弁証法的な考え方がみられます。
雑卦伝 「雑卦伝」は、六十四卦をそれぞれ二つずつ組み合わせて一対にして、卦名の意義を対照的に説明したものです。 「復は反るなり」、「家人は内なり」、「同人は親しむなり」など簡にして要を得た表現があり、実際に占う場合に役立つことが多いです。

このページの先頭へ